水谷隼、”東京オリンピックの集大成 “を振り返る。信じられないような金メダル、引退の意思、そしてファンへの感謝

引用:https://2020.yahoo.co.jp/column/detail/202108070005-spnavi

 ついに、中国の壁を突き破り、頂点に立った。東京オリンピックの卓球競技で新たに採用された混合ダブルスで、ベテランの水谷隼選手(木下グループ)と女子のエース伊藤美誠選手(スターツ)が金メダルを獲得した。若い頃から男子チームを引っ張ってきた水谷選手にとって、4回目のオリンピックでようやく訪れた金メダル。中国を破って頂点に立ったことに「ありえない」と興奮を隠せなかった。

2016年のリオデジャネイロオリンピックで念願のオリンピックメダル(男子団体銀、個人銅)を獲得した水谷選手は、自国で開催されることを最大の理由として、東京2020を目指してきました。その舞台で、彼は金メダルを獲得した。また、男子団体では自らの勝負強さで銅メダル獲得に貢献した。張本智和(木下グループ)という新たなエースがいるとはいえ、水谷は間違いなく日本男子卓球界のレジェンドだ。しかし、2006年1月から訴えていた目の状態が著しく悪化したため、試合を休むつもりだという。そんな彼に、集大成ともいえる東京オリンピックを振り返ってもらった。

卓球で中国に勝つのは、ボルトに勝つようなもの

–混合ダブルスの決勝で、シューシン/リュウ・シーブン(中国)とフルゲーム(4-3)で戦って獲得した金メダルの価値をどう感じていますか?

日本の卓球選手にとって、オリンピックで金メダルを獲得することは、陸上競技の短距離でウサイン・ボルトに勝つようなもので、本当に難しくて高い壁です。日本が中国に勝つのは無理だと周りが思っているのと同じように、私たちも勝つと言っていても無理だと思っています。だから、勝った瞬間、田瀬邦文監督に最初に言ったのは「無理だよ!」でした。私も5回くらい言いましたが、田瀬コーチもお互いに「ありえない!」と言っていました。今まで、いい勝負をしても最後は中国に負けていたので、普通なら今回も無理だと思うんですけどね(笑)。

–1年前のインタビューでは、混合ダブルスの金メダルを本気で狙っていると言っていましたが、勝つ方法は見つかったのでしょうか?

いえ、台湾や香港のペアとの相性が良かったので、メダル獲得の可能性はかなり高いと思っていましたが、正直なところ、金メダル獲得の可能性は20%くらいだと思っていました。せっかく出場するのだから金メダルを取りたいという気持ちは強かったのですが、中国選手の壁に何度もぶつかってしまい、決勝で勝ったペアは0勝4敗でした。正直なところ、難しいと感じていました。しかし、コロナの影響でオリンピックが1年延期になったこともあり、合宿ではたくさんの練習をすることができました。たくさん練習したことで、コンビネーションが良くなったことが勝因だと思います。これまでの試合と比べて、サービスの展開をガラッと変えて、自分が攻めやすく、アグレッシブになれるようなパターンを多く使いました。

–1年前のインタビューでは、サーブ&レシーブの重要性を語っていましたね。

やはり、サーブ&レシーブで主導権を握らないと、その後のラリーを有利に進めることができません。特に、中国ペアとの最終ゲームでは、サーブからの3球目の攻撃が効果的でした。最終ゲームの最初の2ショットは象徴的ですね。また、伊藤のレシーブも良いところに入っていた。やはり、サーブからの3球目、4球目というのはラリーよりもずっと多いので、そこでポイントを重ねることができたのは良かったと思います」。

–リオ五輪の男子団体で初めて銀メダルを獲得した後、初めてシューシンを倒したときに、東京五輪の勝率0%を覆しましたね。

勝つ側になる気持ちは痛いほどわかります。というのも、(圧倒的な優勝候補だった)過去の全日本選手権の決勝では、今まで負けたことのない吉村真晴さんや丹羽孝希さんに負けてしまったんです。強いと思われている側にどれだけのプレッシャーがかかるかがよくわかります。オリンピックの決勝という大舞台で、一度も勝ったことのない相手と戦うとなると、期待が大きすぎて勝つのが当たり前になってしまい、「負けられない」「負けたくない」と思ってしまいます。

今回は、間違いなく精神的に優位に立っていました。他のワールドツアーの時よりもチャンスがあると思いました。ワールドツアーでは、相手へのプレッシャーがありません。しかし、それでも私たちは互角に戦うことができました。だから、オリンピックの決勝で相手がプレッシャーをかけてきたら、これまでとは逆の展開になると思いました。1つのゲームで下手に勝つよりも、今まで散々負けてきたことを利用すればいいんです。男子団体の3位決定戦では、シングルス3番で初めて韓国の選手に勝ちました。負け続けていれば、それがプラスに転じることもあるんですね(笑)。

張本選手の復調と丹羽選手のスウェーデン戦での勝利が大きかったですね。

–男子チームは、以前とは違う立場になっていました。若い張さんをエースにして戦っている印象がありました。水谷選手はコメントの中で張選手の名前をかなり出していましたが、彼の戦いぶりをどう見ていましたか?

張本選手はオリンピック前から握力に問題を抱えていて、オリンピックのプレッシャーに悩まされているようでした。ですから、彼のシングルスは少し心配していましたが、結局(4回戦で)負けてしまいました。団体戦の1回戦、オーストラリア戦では、まだ自分の気持ちが変わっていないと感じました。試合前の練習でも、すごく悩んでいて、まだ集中できていないように感じました。でも、私や丹羽さんが一生懸命頑張っている姿を見て、「自分も頑張らないといけない」と途中で気持ちを切り替えたように感じました。

スウェーデン戦では、最初は動きが硬かったのですが、それに耐えて良くなりました。あの試合では、丹羽が相手のエースを圧倒したことが重要でした。張本にとって一番つらいのは、シングルスで2勝してもチームが負けてしまうパターンで、「頑張って勝っても意味がない」と思ってしまうことだと思うんです。そういう考え方や気持ちを持っていたら最悪ですが、丹羽が勝ったことで、張本は「自分が2勝すればチームが勝つ」と感じ、それが彼を奮い立たせたのだと思います。

–なるほど。準決勝のドイツ戦で2-3で敗れたのは残念だったが、張本はすっかり立ち直っている印象を受けた。3位決定戦の韓国戦では、水谷・丹羽組がダブルスで世界ランク1位のペアに勝ったことで、メダルを獲得することができました。

奇跡のような出来事でした。あのペアに勝てる日本人ペアはいないでしょうね。一番自信のあった大島優也選手とのダブルスでも負けてしまいました。オリンピックでは、勝ったペアにはより大きなプレッシャーがかかります。相手ペアは受け身で、僕らは声を出して終始優位に試合を進めていた印象があります。

そもそも、丹羽さんと私のペアは、慣れない左レフトのペアでした。韓国では「ダブルスは絶対に勝つ」と思っているんですね。まるでボーナスステージのようでした(笑)。第1ゲームで勝てたのは、お互いに各ゲームで的確な戦術、選択、判断ができたことが大きかったですね。最も重要なのは、私たちが正しい精神状態にあったことだと思います。たとえミスをしても、気持ちを切り替えて次のステップに進むことができました。正直なところ、ダブルスで勝てれば、相手がどの国の選手であっても勝てると思っていました。しかし、ダブルスでは絶対に勝てないとも思っていました(笑)。あの大事なときに、まさか自分が勝てるとは思わなかった。

生半可な気持ちでは続けられませんからね。

–試合の話が出たところで、これもお聞きしたいのですが。ボールの回転が見えないなどの症状を訴えていると報道されていますが、この試合の後、一夜明けた記者会見で「目の状態が悪いので、この大会を最後にキャリアを終えようと思っている」とおっしゃっていました。今後の予定も含めて、状況と考えていることを教えてください。

2018年頃から、症状がすごく悪くなっていると感じています。私の気持ちとしては、正直言って卓球ができる状態ではありません。インタビューでも少し話しましたが、回転が全然見えないんですよ。

今回のオリンピックでは照明が少なかった(暗い会場で卓球台を浮かび上がらせる照明。周りが暗いので、白いボールが見やすい)がありました。) ワールドツアーに行くと、会場がライトアップされていて、より難しい試合環境になっています。私の場合は、オリンピックが本当に限界です。それでも、本当に難しいというか、厳しいですね。この3年間、トレーニング方法を変えて状況を打開しようと努力してきましたが、日本では治療法がありません。中途半端な気持ちで競技を続けるわけにはいかないので、もう無理だと判断しました。競技を辞めることにしました。ただ、まだ最終決定ではないので、何らかの形で発表しなければならないと思っています。

–4度目のオリンピック挑戦で、金と銅の2つのメダルを獲得しました。競技人生の集大成である東京オリンピックは、あなたにとって特別なものになりましたか? 最後に、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。

自国開催、1年延期、無観客試合。今まで経験したことのないことがたくさんありました。でも、やはりオリンピックは素晴らしい舞台だと思います。すべてのアスリートに一度は経験してほしいと思うほど魅力的な場所だと思います。注目されることで、本能が刺激される。もし優勝したら、翌朝のニュースではどのチャンネルでも「卓球の○○選手が優勝しました」と言って、お昼にも同じことをするでしょうね(笑)。メダルを取ったら、みんなが僕の特集を組んでくれる。それを見ると、ますます頑張らないといけないという気持ちになりますね。最近では、SNSでファンの方からの反応があるので、それも良い刺激になっています。大きな大会とはいえ、世界選手権ではこうはいきません。ファンには感謝してもしきれません。”感謝 “は、私が大好きだった祖父(2014年に他界した鈴木行司さん)が、とても大切にしていた言葉で、お墓にも刻まれています。